受講生インタビュー

老舗畳屋の6代目が新規開発した「デニム置き畳」の販路を模索。朝日新聞の掲載を皮切りに取材多数獲得し、クラウドファウンディングは目標金額の8倍以上を達成―浅井泰勝さん

愛知県で畳製造および問屋業を営むPR塾生の浅井泰勝さんは、畳の需要が減る中で、畳みの魅力を残しつつ、現代の生活にも合う「デニム置き畳」を開発しましたが、販路や認知拡大に悩み、PR塾へ入塾されました。入塾後すぐのメディア交流会をきっかけに、朝日新聞に掲載されると、クラウドファウンディングへのアクセス数が一気に増え、応援購入の総額は目標金額の8倍を超えました。その後もメディア掲載の連鎖が続いています。浅井さんに、その秘訣をお聞きしました。

◆Profile

代々畳屋を継ぐ家系に生まれ、自身で六代目になる。結婚後、畳部屋の無いアパートで妻と共働き生活をスタート。一人娘が誕生し子育てに奮闘する中、「赤ちゃんの運動能力をどう優秀にするか」という本と出合い、畳の様な床が赤ちゃんの発育環境に最適である事を知る。当時、父親として、また畳職人として娘に畳のある環境を提供してあげられなかった事が、フローリング部屋にも合う、置き畳の商品開発の動機となっている。

ホームページ:https://pao-wow-tatami.com/

オンラインショップ:https://shop.pao-wow-tatami.com/

畳屋なのに、畳の上で娘の世話ができなかった

-現在のお仕事について教えてください。

愛知県で畳製造及び畳資材を卸売りする問屋業を営んでいます。お寺で拝見した過去帳によると、先祖は安政の時代の畳職人だそうで、そこから数えて私は6代目になります。

現在は従来の仕事に加え、新規開発したデニムの置き畳「Tammy Mat」の販売もしています。

(「Tammy Mat」に座る保育園児)

-伝統ある畳屋さんが、なぜ布の置き畳を?

自分はずっと畳のある環境で育ってきましたし、その良さも分かっているのですが、畳がフローリングに置き換わり、需要が減ってきているのは事実。経営環境も悪化している状況です。

実際に自分も結婚後、娘が生まれた頃に暮らしていたアパートには、残念ながら畳の部屋はありませんでした。自身は畳屋だし、「子育てに畳は重宝するよ」という言葉は聞いていましたが、当時はまだ「置き畳」も普及しておらず、ホームセンターで乳児向けのマットを買って、フローリングの床の上に敷いて世話をしていたんです。「畳屋でありながら、畳の上で娘の世話ができなかった」という経験と、「今の時代に合う畳があるのではないか」という思いが、置き畳を開発したいという動機になりました。

ちょうどその頃、従弟が経営する保育園からフローリングの床の上に置くだけで使える「置き畳」を作れないかとの依頼がありました。初めは従来の畳と同じイグサで作ろうと思っていたのですが、それでは水を使った手入れができないため、「汚れ」への懸念を指摘されてしまいます。さらに、汚れがサッと洗えたらいい、模様替えが多いので軽い方が良い、安全のため滑らないでほしい、毎日大勢の子どもたちが使うので丈夫な方がいい…などさまざまな要望もいただきました。

どうすれば良いか悩んでいたところ、妻から「イグサの畳じゃなくてもいいんじゃない?布でいいと思うよ」と言われ、最初は正直抵抗があったのですが、考えてみれば、現代の洋風インテリアには布の方が合うかもしれないとも思い、布の置き畳を作ってみることにしました。

-なるほど、保育園のニーズに合わることにしたのですね。布にすると決めてからは順調でしたか?

いいえ、壁はまだまだありました(笑)。

畳の良い所は、天然素材ならではのサラサラの肌触りです。それだけはどうしても残したかったので、素材としては綿や麻など天然繊維じゃないとだめだなと思ったのですが、それだと「汚れ」に対する懸念は変わりません。どうしたものかと思っていたところ、ある業者さんとの出会いで布に「撥水・防汚加工」をすれば、その課題はクリアできるということに気づき、まずはこの加工をした布で置き畳を作りました。展示会に出展したところ、やはり保育関係者の方からの関心が高く、ニーズがあることは実感できたのですが、ここで新たな課題に直面します。「防炎」の壁です。保育施設では消防法に定められた防炎性能基準の条件を満たしたものを使用しなければならないため、「使いたいけど導入できない」というのです。

そこで一度挫折して、燃えない生地探しから再スタート。都内で開催された布の展示会で、鉄工所で溶接をされる方などが着る服やエプロンを作る「防炎のデニム生地」があることを知り、その布に撥水・防汚加工をかけて置き畳をつくることで、(公財)日本防炎協会の性能試験に適合し「防炎マーク」の認定も受けることができました。構想から実に7年の歳月をかけて、やっと「どこで使ってもらっても問題ない。よし、これで販売していこう」と動けるようになったんです。

(トレードマークの像のマークがついた「パオジャン」は、PR塾の相談会でのアドバイスからひらめいて製作。取材の折などに着用)

7年かけて開発した新商品の販路を模索

― 7年もかけて実現されたのですか!その置き畳のPRのためにPR塾へ?

はい、商品はできたものの、従来のお客さんは愛知県内の畳屋さんしかいないので、そこに売るわけにはいかず、買っていただける方を探さなくてはいけない。でもどうすれば良いのか分からなかったんです。そこで商工会議所に相談したら、クラウドファンディングに挑戦したらどうかとアドバイスをいただき、Makuakeでプロジェクト出展する事を決意しました。準備は進めていたものの「ただ出展するだけじゃ買ってもらえないよな…」「SNSでの情報発信をしないと難しいかな…」と思い始めました。でも自分は発信が苦手で、どのように取り組めばよいかさっぱり分かりません。

ちょうどその頃、商工会議所で三木さん(PR塾講師の三木佳世子)が講師を務める「SNSを活用したPR手法のセミナー」が開催されたので、藁をもすがる思いでセミナーに参加しました。それがPR塾を知ったきっかけです。

-セミナーを受講された上で、さらにPR塾で学ぼうと思われたのは何故ですか?

2日間にわたってのセミナーは内容が濃くて、SNSで発信する上での考え方はよく分かったのですが、具体的に行動しようと思ったら、なかなか動けなかったんです。また、三木さんのセミナーの後に、ちょうどPR塾主宰の笹木郁乃さんの無料オンラインセミナーがあって。私たちのような事業者が商品を販売していくのにどうPRしていったらいいのかというお話をされていたのですが、「どんなに良いものでも、知られていなければ売れるわけがない」という内容が腑に落ちました。

三木さんと郁乃さんのお話で、メディアPRとSNSを組み合わせて総合的にPRするイメージが持てたので、もう少し深くSNSやPRについて勉強しようと思い、PR塾に入塾したんです。Makuakの出展まであと2カ月ほどの予定だったので、とにかく早く入塾して、ある程度多くの方に買ってもらえる状況を作らなくてはと思ったのも理由の一つです。

-出展が迫っていたのですね。実際に入塾されてみて印象はいかがでしたか?

正直、情報量の多さに面喰いました。どれも価値ある内容だと思いましたが、どのように手をつけたら良いか、頭の中で整理するのに時間がかかりました。引っ込み思案な性格なので、本講義のブレイクアウトルームも、初めての時はバンジージャンプで飛び降りるくらいの勇気が要りました。でもここで皆さんからフィードバックをいただいたことで、自分の中でひとつのパターンのPR設計が出来上がったと思います。

また塾生の皆さんがSlack上で積極的に情報発信されている事も大変刺激になりました。オープンな場での情報発信や人前で発表することはとても緊張するのですが、これも発信のトレーニングだと思うようにしています。「学びと実践が同時にできる凄い組織だ」というのが最初から今まで変わらない印象ですが、学びと実践を繰り返す中で「今、自分はどこまでの事が習得できているのか」という成長度合いは、身をもって理解できるようになりました。

-いつもにこやかに参加されているので、緊張されていたとは思いませんでした。割と早い段階で新聞などいくつかのメディアに掲載されていましたよね。

入ってすぐのメディア交流会で、「デニム置き畳」について発表させていただいた事がきっかけで、朝日新聞の記者さんに取材をしていただく事ができました。プレゼンは1分で内容はまとまらなかったし、さんざんな出来だったのですが、「保育士のニーズを受けて開発した」というエピソードが良かったという事と、「資料の写真が分かりやすかった」というフィードバックをいただいたので、後日改めてプレスリリースをお送りしたところ、取材につながりました。

また、朝日新聞の地方版と、デジタル版に掲載していただいた後、トントン拍子で中部経済新聞、FM AICHI、東海テレビなどからも取材を受けてそれぞれ紹介していただいています。

(東海テレビの取材風景)

「素直に学び、即実践」で掲載の連鎖。クラファンも好調

-いきなり掲載の連鎖!素晴らしいです。何か工夫されたことはありますか?

「素直に学び、即実践」―この言葉はRP塾に入塾してから学ばせていただき、現在の座右の銘になっているのですが、まさにこの通りに動いていたと思います。講義の内容や、コンサル、相談会などでいただいたアドバイスをすべて参考にして、「なぜこの商品を開発しようと考えたのか?」「開発した商品の社会性は何か?」は自分の中に落とし込んで、しっかり伝えられるように準備しました。

また「記者目線」の大切さを講義でも学びましたし、相談会で「取材を受ける時に、記者からどんなことを質問されたか覚えておくと、記者がどんな視点で取材しているか分かるのでまた次に生かせる」というアドバイスもいただき、意識しました。

取材時に、どんな映像や写真が撮れるかも大事と聞いたので、取材に来て頂いた時も、会社での取材だけでなく、近所で置き畳を使ってくださっている保育園さんに事前にお願いしておいて、そちらで取材できるようにしておくなど、教えていただいた内容ひとつひとつチェックしながら準備を進めました。

-入念な準備があったからこそ次につながっているのですね。メディアへの掲載で何か影響はありましたか?

朝日新聞に掲載された時期が、ちょうどクラウドファウンディング期間の中盤くらいだったのですが、掲載直後にアクセス数が3倍くらいに跳ね上がり、購買率も上がりました。何もなければ後半戦はアクセスも購買数も伸びは期待できない時期と言われていたので驚きました。

また掲載前は、Maduekeのユーザーに多い「若い男性」の購買がほとんどでしたが、掲載後は本来届けたいと思っていた「女性」が増え、最終的には女性の比率の方が少し多いくらいになりました。また年齢層も高めの方が増えて、新聞掲載の影響を感じました。最終的に70名の方にご購入いただき、応援購入総額は目標50万円に対し、400万円を超えました。

-無事にクラウドファンディングも終了し、現在は主にECサイトでの販売をされていますが、今後の夢や目標を教えていただけますか?

まずはデニム置き畳「Tammy Mat」を、全国の保育施設でご使用いだたきたいと思っています。ありがたいことに、使ってくださる保育施設は増えていますが、まだまだ限られた地域なので、全国にお届けできたらと思っています。また、保育や子育ての場面に限らず、新たな切り口での「使い方」を企画提案していきたいと思っています。畳のイメージが少し古くなってきている中で、今までの畳の世界観を変えるような「新しい畳の文化」を、世界中で広めることができたらいいなと考えています。

表面の素材は変わっても、畳の持っている良さ触り心地や、やわらかさ、使い勝手はちゃんと残して、「現代の生活」に受け入れられる形で「くつろぐ時間」を表現することで、使ってもらえるシーンを増やしていきたいですね。

(「Tammy Mat」に座る保育園児)

-素敵な夢ですね!最後に、入塾を検討されている方へ、ひとことメッセージをいただけますか?

私は中小企業の経営者なので、同じ立場の方にアドバイスができるとしたら「売上を上げるには広報部門が必要だ!」と、身をもって痛感していますとお伝えしたいです。

中小企業のレベルだとまず製品開発とか販売に目がいきがちで、広報といえば広告を出すことだと思っている方も多いと思います。実際、今回メディアに掲載された時も「どうやったの?」と驚かれました。こちらからPRするという発想がなくて「偶然目に留まるのを待っている」という姿勢の方が多いんですよね。でも広報戦略はブランディングにもとても役に立ちます。まずは社長自らが広報部長になって、実践を通して広報の基礎を学ぶには、とても良い環境だと思います。

-社長自ら広報の目線を持って行動されるというのは、とても大切なことですね。貴重なお話をありがとうございました。全国の子どもたちが、デニム置き畳の上ですくすく育つ日を楽しみにしております。

※2023年6月14日取材当時の情報です。